聖母マリアのグリルチーズ、eBayで2万8千ドル——落札したのはカジノだった
焼いてから10年、ひと口かじったあとのグリルチーズサンド。それが2004年、eBayで2万8千ドル——いまのレートで約448万円で売れた。買い手は敬虔な信者でも美術コレクターでもなく、オンラインカジノだった。パンの焼き目に浮かんでいたのは、聖母マリアの顔だという。
朝食のパンに、女性の顔が
フロリダ州ハリウッドに住むダイアナ・デュイザーは、ジュエリーのデザイナーだ。1994年のある朝、彼女はバターも油も引かずに白パンとアメリカンチーズを焼き、できたてのサンドにかぶりついた。そして、思わず吐き出した。焼き目のなかから、女性の顔がこちらを見つめ返していたからだ。「聖母マリア、神の御母だと信じています」。のちに彼女はそう語っている。
デュイザーはサンドを綿を敷き詰めたプラスチックの箱に納め、ベッドサイドに10年間飾り続けた。本人いわく、この聖なる朝食はカビひとつ生えず、おまけにカジノで7万ドルを当てる幸運まで運んでくれたらしい。

eBayが一度は出品を取り消した
2004年11月、デュイザーはサンドをeBayに出す。反応は爆発的で、出品ページへのアクセスは160万件を超えた。
ところが途中でeBayが「ジョーク商品は載せられない」と出品を削除してしまう。デュイザーは「冗談でも捏造でもない」と訴え、落札者にきちんと引き渡す意思があると示した。これでサンドは無事に復活し、競りは加熱して2万8千ドルまで駆け上がった。
落札者はオンラインカジノだった
名乗りを上げたのは、カリブ海アンティグアを拠点とするオンラインカジノ、ゴールデンパレス・ドットコム。同社は落札の理由を「アメリカのポップカルチャーの一片だから」と説明し、「いくらかかっても手に入れるつもりだった」と豪語した。
種を明かせば、ゴールデンパレスは当時、eBayの珍品を片端から競り落とすことで知られた会社だった。ベッカムがユーロ2004のPKで枠の上に蹴り出したボールを買い、のちには元ストリッパーの豊胸インプラントまで落札している。話題になりそうな品に高値を付けて社名を世界に売り込む——サンドもその一手だった。
落札の2日後、同社はフロリダのハードロック・カジノでデュイザーに小切手を手渡した。額装されたサンドは警備員とベルベットのロープに守られ、ちょっとした国宝の引き渡し式のようだったという。
それから、サンドは世界を旅した
ゴールデンパレスはサンドを「神秘的なイメージを宿した聖なるアイコン」と称し、透明なケースに収めて宣伝ツアーに送り出した。広報担当者は「タージマハルや赤の広場、エッフェル塔でも披露したい」と世界行脚の構想まで口にしている。ほどなくサンドをあしらったTシャツ(19.99ドル)やスウェット(20.99ドル)まで登場した。
ところで、本当にカビなかったのか
このサンドはのちに、米国の著名な懐疑論者ジョー・ニッケルの手に渡り、拡大鏡で検分されている。彼の見立てでは、顔に見えたのはフライパンの焼き目が偶然そう並んだだけ——模様を顔と認識してしまう、ありふれた錯覚にすぎない。カビの一件にしても、油を引かずに焼いた白パンは水分が少なく、密閉が甘くてもそうそうカビないと指摘されている。
もっとも、食べ物に聖なる顔が浮かぶ話はこれが初めてではない。1977年にはニューメキシコの女性が焼いたトルティーヤにイエスの顔を見つけ、シナモンロールにマザー・テレサが現れたこともある。聖母マリアのグリルチーズは、その長い系譜のなかでも飛び抜けて高く売れた一枚というわけだ。
カビずに10年、ベッドサイドで持ち主を見守ったとされる朝食は、最後はカジノの宣材として世界を旅した。神の御母を見るか、ただの焼き目を見るか。2万8千ドルを払った側にとっては、たぶんどちらでもよかったのだろう。
- [1] NBC News「'Virgin Mary grilled cheese' sells for $28,000」(2004年11月) — www.nbcnews.com
- [2] The Spokesman-Review/AP「Virgin Mary sandwich goes on tour」(2004年11月25日) — www.spokesman.com
- [3] Skeptical Inquirer「Grilled-Cheese Madonna」(ジョー・ニッケルによる検証) — skepticalinquirer.org