世界のオークションに流れ着いた品々の物語。
おもしろ・ネタ

ハランベ似のチートスがeBayで約1,600万円——でも代金は、誰も払わなかった

ハランベ似のチートス(フレーミン・ホット・チートス1個)

カリフォルニア州バーバンク。職場でフレーミン・ホット・チートスの袋を開けた男性が、皿に空けた一山のなかの1個に手を止めた。同僚が横から覗き込んで言う。「それ、ハランベに似てない?」

そのひと言から、たった1個のスナック菓子は132件の入札を集め、終値9万9,900ドル——1USD=160円換算で約1,600万円まで競り上がった。ただし、この話のいちばんおいしいところは、数字の先にある。

ゴリラに似た、というだけのチートス

出品者はクリス・アストヤニ。仕事中にチートスを皿へ空けたら、うち1個がなんとなくゴリラに見えた、というだけの偶然だった。色は赤く、長さは4センチほど。複数の粒がくっついた形が、木をよじ登るハランベの姿にどこか重なって見える。

eBayへ出した当初の希望価格は15ドル。入札はゼロだった。そこで11.99ドルまで下げたところ、翌日には風向きが一変する。「RARE(激レア)」「一点物」「袋は付きません」とだけ添えた素っ気ない出品ページが拡散し、入札者が次々と値を吊り上げていった。最終的に132件の入札がつき、2017年2月7日の未明、終値は9万9,900ドルで止まった。袋なしのチートス1個に、である。

ハランベは2016年5月、米シンシナティ動物園で射殺された17歳のシルバーバックだ。3歳の男児が囲いに落ちた末の判断で、その是非をめぐる議論は世界中に広がり、やがてハランベの名はおびただしい数のミームへと姿を変えていった。チートスの高騰は、その狂騒のいわば余波だった。

なぜ、チートスに1,600万円が動くのか

伏線は前年にあった。チートスを製造するフリトレーが2016年、変わった形のチートスを募る「チートス・ミュージアム」コンテストを開催し、ユニコーンに似た一粒に5万ドルの最優秀賞を出している。受賞作は奇譚の殿堂リプリーズ・ビリーブ・イット・オア・ノットへ収まった。「奇妙な形のチートスは金になる」——そんな空気が、このとき生まれた。

実際、eBayには「激レアなチートス」の出品が数百件単位で並ぶようになる。ペンギンに似た一粒、マイケル・ジャクソンに見える一粒。値札は数百ドルから数千ドルまでまちまちで、その大半は買い手がつかないまま漂っている。スナック菓子1個に1,600万円という金額は、当時のチートス約5万袋分と並べてみると、ばかばかしさがいっそう際立つ。

落札者は、現れなかった

では、誰がその1,600万円を払ったのか。

答えは——おそらく、誰も。出品者のアストヤニはロサンゼルス・タイムズの取材に対し、落札者は「取引を降りた」と語っている。eBayの規約では、落札後に買い手が降りるのは本来許されない。だが破っても科される最も重い罰がアカウント制限どまりで、抑止力にはなりにくい。

厄介なのは、eBayが入金の有無にかかわらず、最高入札額のまま「落札(sold)」と表示してしまう点だ。世界中が「スナック菓子に9万9,900ドル」と報じたあの数字は、実際には一度も現金の移動を伴わなかった可能性が高い。そもそも誰が入札したのかさえ、消去法でしか辿れない。珍品を広告塔に買い集めていたオンラインカジノのゴールデンパレス・ドットコム——聖母マリアの焦げ目が浮いたトーストを2万8,000ドルで競り落とした、あの企業——でもなければ、リプリーズでもなかった。深夜番組のジミー・キンメルは、架空の落札者を殴ってチートスをぺろりと平らげるコントで、この騒ぎを笑い飛ばした。

記録は、いまもハランベが持っている

奇妙なチートス市場は、その後も律儀に続いている。2025年には、ポケモンのリザードンそっくりの「チートザード」がオークション大手ゴールディンで8万7,840ドル(手数料込み)の値をつけ、再びニュースになった。それでも史上最高額の座は、いまだにハランベのチートスが守り続けている。9万9,900ドル——ただし、誰の手にも一度も渡らなかった金額の話として。

出典 SOURCES
  1. [1] CNBC「ハランベ似のチートス、約10万ドルで落札」(2017年2月) — www.cnbc.com
  2. [2] ABC7ロサンゼルス「バーバンクの男性、ハランベ似チートスを約10万ドルで」(2017年2月) — abc7.com
  3. [3] The Outline「危険なほどチーズくさい、コレクター向けチートス市場」(2019年10月) — theoutline.com
  4. [4] Console Classics「ポケモン似チートス8万8,000ドルの衝撃」(2025年3月) — console-classics.com