ジョブズのビルケンシュトックが3,500万円——足形つきの古サンダルが落札世界記録に
履き古して底のすり減った、半世紀近く前のサンダル。誰が捨ててもおかしくないその一足が、2022年11月、ニューヨークで21万8,750ドル——日本円にして約3,500万円で落札された。元の持ち主はスティーブ・ジョブズ。コルクの中底には、彼の足の形がくっきりと残っていた。
足形のぶんだけ、高く
売りに出されたのは、ジョブズが1970〜80年代に愛用したビルケンシュトックの「アリゾナ」。茶色いスエードの二本ストラップで、ゴム底は見るからにくたびれ、状態は「使い込まれているが、まだ無事」と説明されていた。出品したジュリアンズ・オークションズは、これを落札額としては「サンダル史上最高」と発表している。
同じモデルは、新品なら125ドルで買える。足形が刻まれたぶん、値は千数百倍に化けた。
「ユニフォーム」としてのサンダル
黒いタートルネックとジーンズ。ジョブズのいでたちといえばそれだが、足元のビルケンとの付き合いはもっと古い。元パートナーのクリスアン・ブレナンは後年、サンダルは彼にとって一種の「制服」で、それを履いているときのジョブズはビジネスマンの顔を脱いで自由に考えられたのだ、とヴォーグ誌に語っている。
凝り性は足元でも変わらなかった。ジュリアンズの出品説明によれば、ビルケンを米国に持ち込んだマーゴット・フレイザーのもとには、ジョブズ本人から電話がかかってきたという。素材は何で、どんな構造なのか——一足のサンダルの作りを根掘り葉掘り尋ねたそうだ。
そんな一足が世に出たのは、ジョブズが「物をほとんど持たない人」だったからだ。1980年代、カリフォルニア州オールバニーの邸宅を管理していたマーク・シェフが、主の片付けの折に処分されかけたサンダルを引き取った。シェフいわく「いくつかは手元に残し、いくつかは庭師や友人に分け、いくつかは寄付に回した」。手元に残ったコレクションは、まったくの偶然の産物だった。
19回の応酬
2022年11月13日、ニューヨークのハードロックカフェ。ジュリアンズの当初予想は6万〜8万ドルだった。ところが、ふたを開ければ入札は19回に及ぶ。1万5,000ドルから始まった値はみるみる吊り上がり、会場で札を上げ続けた人物と、電話の向こうの中国からの応札者が最後まで競り合った。報じられた最高入札は17万5,000ドル。ここに手数料が乗って、最終的な落札価格は21万8,750ドルになった。サンダルには360度スキャンの画像をおさめたNFTも付いたが、落札者の名前は明かされていない。
2,000ドルが、6年で
この同じ一足は、ほんの数年前にはまるで違う値札を付けていた。ジュリアンズによれば、2016年のオークションでは2,000ドルあまりで売れている。6年で、ざっと百倍だ。
もっとも、「靴」全体で見れば21万ドルは記録でも何でもない。マイケル・ジョーダンが履いたナイキは147万ドル、カニエ・ウェストのナイキは180万ドルで落札されている。あくまで「サンダル部門」での金字塔である。落札後の行方は公表されていないが、このサンダルはかつてドイツのビルケンシュトック本社やニューヨークの店舗で展示されてきた。
物をほとんど持たず、片付けのたびに身軽になっていった男。その彼が捨てかけた一足が、足の形を残したまま、3,500万円の「聖遺物」になった。ミニマリストが手放したものほど、よく売れる。
- [1] CNN「Someone just paid more than $200,000 for Steve Jobs' old Birkenstocks」(2022年11月) — www.cnn.com
- [2] NPR「Steve Jobs' auction sandals」(2022年11月) — www.npr.org
- [3] CBS News「Steve Jobs' worn-out Birkenstock sandals sold at auction for $218,750」(2022年11月) — www.cbsnews.com