世界のオークションに流れ着いた品々の物語。
おもしろ・ネタ

祖父の幽霊つき杖がeBayで6万5千ドル——母が仕掛けた「やさしい除霊」

Grandfather's Ghost Cane(祖父の幽霊つき杖)

「おじいちゃんの幽霊が家にいる」。そう言って家の中を一人で歩けなくなった6歳の息子のため、母親は亡き父の杖を——幽霊ごと——eBayに出した。出品タイトルは「これは冗談ではありません」。2004年12月、その杖を6万5千ドルで競り落としたのは、敬虔な誰かではなく一軒のオンラインカジノだった。

「これは冗談ではありません」という出品

インディアナ州ホバートのメアリー・アンダーソンがeBayに並べたのは、亡き父が使っていた金属製の歩行用の杖だった。ただし、商品説明の主役は杖ではない。彼女が手放したかったのは、その杖に「ついてくる」とされる父の幽霊のほうだった。

メアリーは出品文に、コリンが祖父の死をきっかけに怯えるようになった経緯を率直に書いた。そして落札希望者を怖がらせまいと、こう付け足している。父は「あなたが出会う中でいちばん優しく、思いやりのある人」だった、と。

本来eBayは、魂や霊のように「引き渡しを確認できない無形のもの」の出品を認めていない。それでも今回が削除されずに済んだのは、メアリーが売っているのはあくまで実物の杖であり、幽霊の話は息子を安心させるための演出だと明示していたからだ——と、eBayの広報は説明している。

怖がる息子と、母の作戦

コリンの祖父、つまりメアリーの父は、前年にこの家で亡くなっていた。それ以来、6歳のコリンは家の中で一人になるのを極端に怖がるようになった。母に打ち明けた理由は、子どもらしく身も蓋もないものだった。出品文によれば、彼はこう言ったという。「おじいちゃんはここで死んだ。怖い人だった。まだこのへんにいるんだよ」。

ありがちな子どもの怖がりだと思っていた、とメアリーは振り返っている。だが息子が本気で怯えていると知って、彼女は理屈ではなく物語で解くことにした。幽霊が杖に宿っているのなら、杖ごと誰かに引き取ってもらえばいい。その代わり、落札者には一つだけ「お願い」を添えた。杖(と幽霊)を受け取ったら、コリンに手紙を書いてほしい——「おじいちゃんは今あなたのところにいて、仲良くやっている」と。

132件の入札と、思わぬ買い手

当初の最高額は78ドルほどにすぎなかった。ところが事情を知った人々が次々に値を付けはじめ、コメント欄には「あなたの話に涙が出た」という声から、「以前ハズレの幽霊で懲りたので、今度は保証が欲しい」という軽口まで並んだ。入札は最終的に132件に達し、アンダーソン夫妻はNBCの朝の番組「Today」にまで出演している。

競りが締め切られた月曜の夜、落札したのはアンティグアに拠点を置くオンラインカジノ、GoldenPalace.comだった。金額は6万5千ドル。現在のレートで約1,040万円(1USD=160円換算)にあたる。同社はその少し前に「聖母マリアの顔が浮かんだ」とされるグリルチーズサンドを2万8千ドルで競り落としたばかりで、幽霊つきの杖はそのコレクションに加わることになった。落札の理由を、広報担当のモンティ・カーはあっさりこう言ってのけた。これは新しい「アメリカーナ(米国らしさ)」なんだ、と。

その後

母の「お願い」は、果たされる約束になった。カジノ側は、コリンに手紙を書くと明言している。杖はグリルチーズサンドと同じく各地を「巡業」させる予定だとも語られ、落札金はコリンへの特別なプレゼントに充てられるという。

騒ぎは杖一本では収まらなかった。オークションの後、eBayで「ghost cane(幽霊の杖)」と検索すると、便乗の出品や関連グッズが86件もヒットしたという。中には「幽霊つきのTバック」まであったというから、黎明期のネットの悪ノリは推して知るべしだろう。

ただ、肝心の手紙が本当にコリンの手元へ届いたのか、杖が今どこにあるのかを最後まで追いかけた報道は、見当たらない。残っているのは、6歳の子の恐怖を「6万5千ドルで誰かに肩代わりしてもらった」という、たぶん世界でいちばん優しくて、世界でいちばん高くついた除霊の記録だけである。

出典 SOURCES
  1. [1] NBC News / AP「Ghost cane nets $65,000 on eBay」(2004年12月) — www.nbcnews.com
  2. [2] Fox News「Woman Sells Father's 'Ghost' on eBay」(2004年12月) — www.foxnews.com
  3. [3] UPI「Ghost sells on eBay for $65,100」(2004年12月7日) — www.upi.com