世界のオークションに流れ着いた品々の物語。
奇妙・珍品

未開封の初代iPhoneが約3,000万円で落札——定価の約380倍、幻の4GB版

初代iPhone 4GBモデル(2007年・工場出荷時シュリンク未開封)

誰もが一度はやった。新品のスマホを包む薄いフィルムを、爪を立てて剥がすあの瞬間。だが、それを「やらなかった」人がいた。2007年に売り出された初代iPhoneを、箱のまま、工場出荷時のシュリンク包装ごと16年間しまい込んでいた一台が、2023年のオークションで19万372.80ドル——日本円にしておよそ3,046万円で落札された。定価499ドルの、約380倍である。

開けなかったことに、値がついた

出品したのは、米ルイジアナ州を拠点に高額トイ・コレクティブルを扱うLCGオークションズ。同社の「2023 Summer Premier Auction」に並んだその一台は、6月30日に1万ドルでスタートした。事前のエスティメート(予想落札価格)は5万〜10万ドル。ところが終盤、入札は跳ねた。28回の応札のうち5回が10万ドルを超え、7月16日の夜、ハンマー(最終入札)は15万8,644ドルで止まる。ここに20%の購入手数料が乗り、支払総額は19万372.80ドルになった。

スマートフォンとしては、もはや何の役にも立たない。2Gの電波は各地で止まり、電話の一本もかけられない。バッテリーも生きてはいないだろう。それでも値がついたのは、この個体が一度も箱から出されていないからだ。

安かった方が、高い

妙な話だが、この値段は「不人気だったこと」への褒美である。

初代iPhoneには2種類あった。4GBモデルが499ドル、8GBモデルが599ドル。100ドルの差なら容量の多い方を、と考えた人がほとんどで、4GBはまるで売れなかった。アップルは発売からわずか2か月余り、2007年9月5日にこの4GB版を打ち切っている。世に出回った数が、もう一方とは桁違いに少ない。LCGは4GB版を8GB版の「約20倍希少」と見積もり、コレクターの間では「ホーリーグレイル(聖杯)」と呼ばれていると説明した。安く、人気がなく、すぐ消えた。その三拍子が、16年後に価格を押し上げた。

売り主は「中の人」だった

LCGによれば、この一台を手放したのは、iPhone発表当時のアップルの開発チームにいた人物だという。来歴を示す書面も添えられていた。誰が、なぜ未開封のまま持ち続けたのか、それ以上の事情は明かされていない。

密封された初代iPhoneが競売にかかるのは、これが初めてではなかった。2022年10月に8GB版が約3万9,000ドル、2023年2月には別の8GB版が6万3,356.40ドルで落札され、いずれもその時点の最高額を更新している。報道によれば、2月の一台の元の持ち主は、2007年に友人から贈られながら当時の自分の携帯回線では使えず、そのまま棚にしまい込んでいた女性だったという。1年足らずのうちに3度、初代iPhoneが記録を塗り替えた。

「唯一の一台」のはずだった

落札の直後、LCGの創業者マーク・モンテロは米メディアに、これが表に出てきた唯一の4GB密封版だと語っている。だが、その言葉は長くはもたなかった。同じ2023年の10月には別の4GB密封版が約13万3,000ドルで、翌2024年にもさらに別個体が約13万ドルで落札されている。眠っていた「聖杯」は、一つではなかった。

それでも、19万372.80ドルという数字だけは動かなかった。本稿の執筆時点でも、初代iPhoneのオークション最高額はこの2023年7月の一台のままだ。

箱を開ければ、価値は一気にしぼむ。この一台の値打ちは、誰も触れていないという一点にだけ宿っている。包装を破かなかった人が、結局いちばん得をした。スマートフォンの歴史に残る教訓としては、これほど座りの悪いものもない。

出典 SOURCES
  1. [1] Engadget「Unopened first-gen iPhone sells at auction for $190,000」(2023年7月) — www.engadget.com
  2. [2] MacRumors「Rare 4GB Original iPhone Sells for Record $190,000 at Auction」(2023年7月17日) — www.macrumors.com
  3. [3] AppleInsider「Yet another sealed 4GB original iPhone brings in over $100,000 at auction」(2024年3月25日) — appleinsider.com