ティンバーレイクの食べかけフレンチトースト、1,025ドル落札——『あれは僕の』
2000年春、ニューヨークのラジオ局に、食べかけのフレンチトーストが一皿だけ置き去りにされた。数日後、その二切れはeBayで1,025ドル——いまのレートで約16万円(1USD=160円換算)の値をつける。世に言う「ティンバーレイクの食べ残し」だが、話はそう単純でもない。
ラジオ局に残された二切れ
2000年3月、当時ニューヨークで絶大な人気を誇った局Z100の朝番組に、*NSYNCが出演した。スタジオで供されたのは、どこにでもあるフレンチトーストの朝食。ところがジャスティン・ティンバーレイクは、それを少し残して立ち去った……ということになっている。
番組のDJは、この食べかけを捨てなかった。出品番号279562051として、そのままeBayに並べたのである。アイドルが口をつけたパン、というだけの代物だ。だが折しも*NSYNCは人気の絶頂にあり、メンバーが触れた物なら何にでも値が付く空気ができていた。
「彼らのかけらが欲しかった」
落札したのは、ウィスコンシン大学マディソン校の2年生、カシー・サマーズ(当時19歳)。競りは加熱し、最終的に1,025ドルで決着した。母親はこれを「干からびたパン切れ」と呆れたというが、本人はいたって本気である。「彼らのかけらが、ただ欲しかっただけ」と彼女は語った。
トーストはドライフリーズ(冷凍乾燥)して密封し、自室に飾るつもりだという。届いた二切れは、本人いわく「ちょっと焦げ気味」だったらしい。
「あれは僕のだ」
ところが、このささやかな美談には横槍が入る。MTV Newsの当時の報道によれば、同じ*NSYNCのランス・バスが「あれは自分のフレンチトーストだ。ジャスティンのじゃない」と名乗り出たのだ。
DJは「ジャスティンの」として売り、世間もそう記憶してきた。なのに、当のティンバーレイク本人ではなく別のメンバーが所有権を主張する——パン二切れをめぐる、世界で最ものどかな帰属争いである。真相は、たぶん誰にもわからない。
パンが慈善になった話
落札額の使い道は、存外まっとうだった。報道によれば、サマーズの1,025ドルにZ100が同額を上乗せし、NSYNCお気に入りの慈善団体へ寄付されたという。さらにNSYNC側は礼として、ミネソタかイリノイ公演への特別ゲスト招待を申し出た。パンが寄付に変わり、ファンがステージ脇に立つ。落としどころとしては、悪くない。
あの一皿がいまも誰かの部屋で凍ったまま眠っているのかは、報じられていない。ただ、芸能人の食べ残しやゴミに値が付くという発想だけは、このあとしっかり定着した。数年後にはブリトニー・スピアーズの「使用済みとされる妊娠検査薬」までeBayに並ぶのだから、焦げたトースト二切れは、ただ少し早すぎただけなのかもしれない。
- [1] TIME「eBay 20th Anniversary: 20 Weirdest Items」(2015年) — time.com
- [2] HowStuffWorks「12 Of The Craziest Items Ever Sold On eBay」 — computer.howstuffworks.com
- [3] *NSYNC Timeline March 2000(MTV News報道の記録/ランス・バスの主張・寄付・落札者コメント) — stillnsync.home.blog