世界のオークションに流れ着いた品々の物語。
仰天の高額落札

大谷翔平「50-50」ボール、約7億円で落札——ボール史上最高額の裏で続く争い

Shohei Ohtani 50-50 Milestone Home Run Ball(大谷翔平 50号本塁打球)

2024年10月、一個の野球ボールが439万2000ドルで落札された。日本円にして当時のレートで約6億6000万円、いまのレートなら7億円に届く。野球ボールはおろか、サッカーでもバスケでも、これまで競売にかけられたあらゆる「球」の史上最高額である。打ったのは大谷翔平。MLBで誰も足を踏み入れたことのなかった「50本塁打・50盗塁」の領域に、その一打で到達した記念球だった。ただし、この記録には少々厄介な後日談がある——ボールはいま台湾にあり、約7億円の行方はなお法廷で争われている。

たった一打が引いた線

2024年9月19日、マイアミ。ドジャースがマーリンズを20対4で下したこの日、大谷は6打数6安打、本塁打3、打点10、盗塁2という、近年のMLBでも語り草になる一試合をやってのけた。試合前の数字は48本塁打・49盗塁。その日打った3本塁打の2本目が50号となり、盗塁も50に乗せて、史上初の「50-50」が現実になった。シーズンは54本塁打・59盗塁で締め、ナ・リーグMVPとワールドシリーズ制覇まで手にしている。

スタンドでの、ほんの数秒

50号は左中間スタンドに飛び込んだ。打球が客席に落ちれば、当然のように奪い合いが起きる。最終的にボールを掲げたのはクリス・ベランスキーという男性で、彼はその場でMLBの認証を受け、ボールをゴールディン・オークションズに委託した(のちに法廷の書面で名前が別表記に訂正される一幕もあった。目撃者の証言から取り違えていたためだという)。

ところが、ここで18歳のマックス・マータスが「自分こそ正当な持ち主だ」とフロリダ州の裁判所に訴え出た。マータス側の主張によれば、彼は誕生日に訪れた球場で一度はボールを左手に掴んだものの、「屈強な年上の男に腕を脚で挟まれ、手からもぎ取られた」のだという。さらにジョセフ・ダヴィドフという別の観客も「最初に掴んだのは自分だ」と提訴した。一個のボールに、三者三様の「これは私のものだ」が突きつけられたことになる。

裁判所は競売の差し止めまでは認めなかった。スペンサー・アイグ判事のもとで関係者が合意し、「落札はそのまま進める。代金は所有権争いが決着するまで預かる。落札者には完全な権利を渡す」という形で競売は続行された。

40件の入札、4カ国の争奪戦

競売は9月27日、50万ドルから始まった。450万ドルで即決という選択肢も用意されていたが、入札はそれを使うまでもなく加速していく。10月にはアーロン・ジャッジの62号球がつけた150万ドル(野球ボールの従来2位)をあっさり超え、200万ドルを突破。会期延長後の最終盤、最後の1時間に9件の応札が殺到して、価格は一気に跳ね上がった。

最終的な439万2000ドルは、バイヤーズプレミアム(落札手数料)を含んだ総額で、ハンマープライス自体は約360万ドルと報じられている。それでも、この球が塗り替えた記録は大きい。野球ボールの従来最高額は、1998年にマーク・マグワイアが放った70号球で、『スポーン』の生みの親トッド・マクファーレンが1999年に300万ドルで競り落としたものだった。四半世紀ぶりに、その額を大きく上回ったわけだ。

ゴールディンによれば、入札者は4カ国にまたがり、大谷の母国・日本からの応札も激しかったという。

ボールは台北、争いはマイアミ

落札者は当初伏せられていたが、まもなく台湾の投資会社UCキャピタル(優式資本)だと明らかになった。かつて世界一の高さを誇った超高層ビル・台北101に入居する企業である。同社はボールをガラスケースに収め、2024年11月から翌2025年3月初めまで、台北101の展望台で一般公開した。大谷のユニフォームやサインも借り集めた特別展で、チケットを持つ来場者は誰でもその球を間近に見ることができた。台湾の財務当局が、この一個の輸入ボールにかかるはずの関税を免除したことも、当時話題になった。

一方、マイアミの裁判所では争いがなお続いている。ボールの所有権は競売によって落札者へきれいに移った。もう物理的なボールを取り合う段階ではない。残っているのは、第三者預託に積まれた約7億円を誰がどう分けるのか、という問いだ。2025年の終わりの時点でも、この民事訴訟は決着していないと報じられている。

似た騒動は、これが初めてではない。2001年、バリー・ボンズの73号球を巡っても、最初にグラブへ収めた男性と、人混みから掲げて現れた別の男性が法廷で争い、判事が「ボールを売って代金を折半せよ」と命じた前例がある。球場のスタンドで一瞬のうちに起きた出来事が、何年もかけて法律家の仕事になる——その構図は、二十年あまりを経ても変わっていない。

ボールは静かに台北のビルに収まり、訪れる人を喜ばせている。その同じ球が生んだ約7億円は、海を越えたマイアミの法廷で、まだ持ち主を待っている。一個の革の球が運んだのは、記録と歓声だけではなかったらしい。

出典 SOURCES
  1. [1] Dodgers star Shohei Ohtani's 50/50 ball fetches $4.39 million at auction(ESPN, 2024年10月/落札額・代金エスクロー保管) — www.espn.com
  2. [2] Auction of Shohei Ohtani 50/50 ball to proceed amid legal dispute(ESPN, 2024年10月/競売続行の合意・落札者への完全権利付与) — www.espn.com
  3. [3] Taiwan firm won auction for Ohtani's 50th home run ball(Taipei Times, 2024年10月/落札者UCキャピタル) — www.taipeitimes.com
  4. [4] The Ohtani 50/50 home run ball lawsuit plods along(True Blue LA, 2025年12月/訴訟継続・代金の取り分争い) — www.truebluela.com