アル・カポネの愛銃、104万ドルで落札——孫娘たちが手放した「スイートハート」
2021年10月8日の夜、カリフォルニア州サクラメントの会員制クラブで、一丁の古びたコルトが、開始価格5万ドルで競売にかけられた。競りはそこから一気に駆け上がり、最終的な落札価格は手数料込みで104万600ドル——約1億6,650万円(1USD=160円換算)。銃の元の持ち主は、アル・カポネ。競売台に載せたのは、彼を「パパ」と呼んで育った孫娘たちだった。
ギャング王の遺品、死後74年の売立て
アル・カポネは禁酒法時代のシカゴで密造酒、賭博、売春を牛耳り、メディアに「社会の敵ナンバーワン」と名指しされた男だ。1929年に対立組織の7人が壁際で射殺された「聖バレンタインデーの虐殺」も、カポネが裏で命じたと広く信じられている——もっとも、その朝、本人はフロリダにいたのだが。結局、彼を仕留めたのは銃弾ではなく税務署だった。1931年に脱税で有罪判決を受けて服役し、のちに「脱獄不能」で名高いアルカトラズ連邦刑務所へ移送される。晩年は病に蝕まれ、1947年1月、フロリダ州マイアミビーチのパーム島にある邸宅で48年の生涯を閉じた。
遺品はパーム島の屋敷から一人息子のソニーへ、ソニーが2004年に亡くなると、その娘たち——カポネの3人の孫娘へと受け継がれた。イニシャル入りのダイヤの宝飾品も、アルカトラズから届いた手紙も、2丁のコルトも、70年以上一族の外に出ることなく、最後は北カリフォルニアの彼女たちの家に収まっていた。
手放す決断をしたのは、孫娘の長女ダイアン・カポネ(当時77歳)たちだ。自分たちが生きているうちに品物を譲り渡しておきたかったこと、そして近年、住まいの周辺で山火事が相次ぎ、燃えれば何もかも失うという不安が消えなかったこと——ダイアンはワシントン・ポストの取材に、手放す理由をそう語っている。彼女たちにとってカポネは、家の中を一緒に駆け回って遊んでくれる「パパ」だった、とダイアンは声明で振り返る。そして最も鮮明な記憶として挙げるのが、1947年の臨終の夜だ。母に連れられて2階の寝室へ上がり、父の手でベッドに抱え上げられると、祖父は頬にキスをして「愛しているよ、ベイビーガール」と言った。それが、彼女が聞いた最後の言葉になった。当時、彼女は3歳。
「スイートハート」と呼ばれた銃
セールの目玉は、カポネが愛用したとされるコルト・モデル1911、45口径の自動拳銃である。製造は1912年。このモデルが市販された最初の年の一丁だ。
カポネ自身がこの銃について「何度も命を救ってくれた」と周囲に語り、「スイートハート(恋人)」と呼んでいたと伝えられる。孫娘たちの証言でも、祖父はどこへ行くにも肌身離さず携えていたという。抗争の絶えない世界を生き延びた男の、最後の保険である。
ウィザレルズが付けたエスティメート(予想落札価格)は10万〜15万ドル。美術品ではなく、ギャングの拳銃である。妥当な見立てに思えた。
予想15万ドル、結果はその7倍
「悪名の一世紀——アル・カポネの遺産」と題されたセールは、「サッタークラブ」に招待客だけを集めて開かれ、報道陣は閉め出された。シカゴ・サンタイムズによれば、オンラインを含め全米50州と海外から1,200人超の入札者が登録し、アクセスが集中してウィザレルズのサイトが一時つながりにくくなったほどだという。
スイートハートには競りの末、86万ドルで槌が下りた。買い手側の手数料を加えた最終価格は104万600ドル。エスティメート上限の7倍近くに跳ね上がり、当時の報道は、20世紀製の銃として世界でも指折りの高額落札になったと伝えている。もう一丁のカポネのコルト自動拳銃も24万2,000ドルと、予想をはるかに超えた。
ほかの遺品も止まらなかった。プラチナとダイヤのパテック・フィリップ懐中時計が22万9,900ドル。葉巻の保湿ケースが14万5,200ドル。そしてカポネがアルカトラズから息子に宛てた、ソニーを「わが心の息子」と呼ぶ3ページの手紙は5万6,700ドル。174点の総売上は310万ドル超、約5億円。事前の見込みの4倍にあたり、ウィザレルズの代表ブライアン・ウィザレルは「いろんな意味で衝撃的だった」と同紙に語っている。
一方で、ギャングの遺品を売って利益を上げることへの批判の声が出たことも報じられている。当のスイートハートを競り落としたのは匿名の買い手で、以後も名乗り出ていない。
三年後、競売台に戻ってきた
物語には続きがある。2024年5月、スイートハートはサウスカロライナ州のリッチモンド・オークションズに、この一丁だけの単独セールとして再登場した。エスティメートは200万〜300万ドル——3年前の落札額を大きく上回る強気の値付けである。
だが、入札は88万5,000ドル(約1億4,200万円)で止まる。リッチモンド・オークションズによれば、所有者は見積もりに遠く及ばないこの額での売却を拒み、銃は競売から引き上げられた。2021年の落札額にすら届かない数字なのだから、無理もない。
カポネの死から74年間、一族の手を離れなかった銃は、離れた途端に値札の世界を漂いはじめた。その後、再び売りに出たという報道は見当たらない。スイートハートはおそらく今も、名乗らない誰かの手元にある。競売台に戻る日が来るのかどうかは、その人だけが知っている。
- [1] Chicago Sun-Times「Auction of Al Capone's heirlooms rakes in a 'shocking' $3.1 million」(2021年10月) — chicago.suntimes.com
- [2] Fox Business「Al Capone's 'favorite' gun sells for $1M at Sacramento auction」(2021年10月) — www.foxbusiness.com
- [3] The Seattle Times(Washington Post電)「Al Capone's granddaughters are selling his possessions」(2021年8月) — www.seattletimes.com
- [4] Chicago Sun-Times「Al Capone's sidearm 'Sweetheart' pulled from auction after bids hit $885,000」(2024年5月) — chicago.suntimes.com